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仰々しくも“取り調べ室”を使うまでもないと。
上階にある見晴らしのいい喫茶室にて、
温かい飲み物を前に、問題のお嬢様たちと向かい合ったは、
毎度お馴染みの蓬髪頭の壮年殿で。
一通りの事情は、所轄の方から聞いてあると前置いてから、
「父上のお気に入りを盗まれそうになって、
お主が怒った気持ちは判らぬではないが。
一番のお気に入り、
いやいや、命より大事な一人娘が怪我でもしたら、
父上はどれほど嘆かれたか。」
「…………はい。//////」
白い顔容をうつむけ、
撫で肩をなお小さくすぼめてしおしおと萎れた白百合さんなのを、
微笑ましいと目許を和ませる警部補殿な一方で、
「…………。」
「…久蔵殿、そんな怖い顔しない。」
今にも牙を剥きそうなほど険悪なお顔をする紅ばらさんを、
ひなげしさんがこそり窘めるのもまた、
いわゆるお約束というところかと。(笑)
………えとえっと、何と申しましょうか。
仔猫の追跡から思わぬ出合い頭で露見した、
草野邸に於ける、高価骨董書画 窃盗未遂、
ならびに 少女らへの凶悪な傷害未遂事件。
まずは管轄の所轄から、
捜査課の刑事さんたちがわらわらっとお越しになったものの。
直接の被害者でもあり、
容疑者二人を鮮やかに畳んでしまった
功労者でもあるお嬢様たちの顔触れへ、
ちょっと待て、確か昨年度もその前にも、
……いやいやいや、年度は深く考えないにしても (苦笑)
ここいらであれこれと起きた騒動に、
毎度お顔を出してる顔触れじゃあなかろうか。
皆さん、それと気づいたそのまま、
こういう管轄ならではな、
ある種の“心遣い”をついつい思ってしまっても無理はない。
名家の令嬢たちだけに、
たとえお手柄でもこうも続くと外聞もあろう。
世間へ名が売れるのと、敢然と存在感を保つのとは全くの別物。
お転婆なお嬢さんたちだとの浮名を流すのは、
あんまり芳しくはないこと。
どうしたらよかろうかと、
微妙に融通の方向を考えた上のほうの方々が、
以前のあれこれへの対処を上手に片付けたお人が、
ほれ確か警視庁にいただろうと思い出し。
状況に対する事情聴取を一応済ませてから、
署長用の公用車を仕立て、
三人揃ってそれは丁重にお送りしたのが、
此処 警視庁だったというワケで。
穏便な処置をよろしくとの伝言つきで、
微妙な厄介払いというか、
たらい回しにされて来たお馴染みのお顔を見やり、
う〜んと困惑のお顔になったのが、
捜査一課 強行係班長・島田警部補だというのは、
もはやお決まりの流れというべきか。
ただまあ、
彼が様々な方面から頼りにされる存在だというの、
妙な しがらみや何やを詮索するでなく、
素直にああそうかと頷ける所轄の方々でもあったそうで。
ただ単に検挙率が高いというだけじゃあなく、
決着と同時に、別件の…それも政財界の大物検挙への取っ掛かりを、
ついでのようにして浮き上がらせることもままあるほど。
事態収拾の手際が色んな意味で奥深いところから、
上層部の方々には、
こそりと…頼りにされたり はたまた煙たがられたりしている、
なかなかに骨のある名警部補殿であり。
“情があってのこと、上の者への融通が利かないというところが、
下の者からは支持されるというもので。”
当人はただ単に、
贔屓を作るとあとあと派生するものがいちいちややこしいからと、
面倒がってるだけかも知れぬ。
というか、そんな言いようをして、
せいぜい偏屈な悪ぶっているよなお人なのが見え見えで。
そういうところ、客観的に把握できているひなげしさんとしては、
“シチさんにしてみりゃあ、
かつての勘兵衛様と同んなじだvvと、
惹かれてやまないのも しょうがないってもんでしょうよね。”
様々な機微への理解や把握に長ける、
壮年という世代に相応しい内的結実を見せつつ。
その肢体に鋼のような強靭さを隠し持つ、
それはそれは男臭い精悍さも重々居残しており。
経て来た歳月の蓄積が綯い上げた豊かな人性の厚みとそれから、
やや錯綜した結果のそれだろう不敵な深みとを、
破綻なく同居させている男なればこその強かさというべきか。
………なんてな、ややこしいあれこれなんてどうでもいい
『男臭くて頼もしくって、
その甲斐性でもって
弱いものを支えてくれる、基本 優しいお人で。
あ・そうそう、ずぼらなところを隠し切れていないのも、
親しみ深くて何だか嬉しい。
ただ男前なだけじゃなくって、
そういう隙もあっての可愛いところもお持ちだなんてvv
本当にもうもう、袖斗(ひきだし)が多いお人なんだから、もうvv』
恋するヲトメなんてのは、アバタもえくぼが当たり前。
叱られているというに、
いかにも愛らしく含羞み続けの白百合さんを横目で見つつ、
こういう相変わらずな惚気の数々、
しょうがないなぁと聞いて差し上げる所存の、
お友達たちであったそうです。
「ところで勘兵衛様、競馬チックって御存知ですか?」
「んん? 知っておるが…お主こそ、なんでまた?」
〜Fine〜 12.01.05.〜01.09.
*なんで久蔵殿が御存知だったかは不明ですが、
競馬チックというのは、随分と古いメーカーの整髪料でして。
リップクリームやコンシーラーみたいに、
回転式ケースに入ってて、
使うときにぐりぐりと回して出すタイプの、
ポマードというか ワックスというか……。
ちなみに、シチちゃんのお父さんは知ってたそうで、
実は勘兵衛様も御存知で、ちっ、やっぱり同世代かと、
少しは勘兵衛様のほうがお若いと踏んでただけに、
ちょっと悔しかったシチちゃんだったら笑えます。(こら)
そして、
「慎み深いシチが、なのに箍の外れた俺を制さないのは、
もしかして、騒動の後に こうして島田と逢えるからなのか?」
「はい?/////////」
なんて、紅ばらさんから不意打ちされてりゃあいいです。(大笑)
めーるふぉーむvv 


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